運航
2017/11/27

プロ・パイロットらしさ

運航本部
JGAS AVIATION BLOG

ハッと気付くと、年末年始まで早1ヶ月。人々の服装も街の装いも、すっかり年の瀬を感じさせる今日この頃です。いやいや、鹿児島も結構寒いんですよ。

今日も私の拙いブログにお付き合いいただき、ありがとうございます。JGAS鹿児島フライトトレーニングセンター 運航本部長の山口です。

訓練生と話していて気になること

最近の訓練生は、とてもよく勉強しています。模擬口述試験での質問にも、かなり正確な回答が返ってきます。私が訓練生だった頃、果たしてこんなに勉強していただろうか、と思うほどよく勉強している。

一方でプロ・パイロットらしさ、とでも呼べばいいのでしょうか… 何をもってしてプロ・パイロットと呼ぶのかはここでは論じませんが、少なくとも「私たちプロ・パイロットが、あぁ、そりゃそうだよね」と感じる姿勢・態度を持っている者をプロ・パイロットと呼ぶのだと定義すれば、その定義に馴染まない、馴染もうとしない者がいるのも気になります。いわゆる「頭でっかち」で、知識はあるが「その知識を上手に使えない」者。

もちろん、今まさにプロ・パイロットになろうと努力している最中ですから、今日現在、プロ・パイロットらしくなくても仕方ありませんが、頭でっかちな者は、得てして教官の指導に素直に従おうとしない傾向があります。なまじ勉強をしっかりしているだけに、教官の言葉を真摯に受け止めようとしない(知識量や正確さでは教官よりも優れていることがままある)。

例えば、こんな例で考えてみると解り易いかもしれません。

飛行機には、離着陸に際し、離着陸しようとする「滑走路の方向」に対する「横からの風」の強さに制限(厳密には制限ではない)があります。飛行機は空気(流体)の中を飛行するため風に流されますが、離着陸する方向(滑走路の方向)に対して余りにも横からの風が強いと、安全に離着陸できないからです。

離着陸しようとする飛行機に対する風の向風成分と横風成分の概念図
離着陸しようとする飛行機に対する風の向風成分と横風成分の概念図

上図を見れば解るとおり、この横からの風(横風成分)は簡単な三角関数で求められます。仮に離着陸の方向(飛行機の前後軸:機軸)に対して、斜め前方30°から30 kt(ノット)の風が吹いていれば、向風成分は30 x cos 30°= 26 kt 横風成分は 30 x sin 30°= 15 kt だと計算できます。実際、離着陸の際には、管制塔の管制官から「風向/風速」がパイロットに通報されますから、パイロットは横風成分が制限値内にあることを確認しなければなりません。

それでは、パイロットは離着陸の際に、実際に電卓を叩いて横風成分を計算しているのか、と言えば、そんな事をやっている者はいない。10°刻みの簡単な対照表を作成しておいて、その表で確認したり、予想される風の風向/風速から「○○°の範囲内で○○kt までなら制限値内」だと判断したりする。でも、たとえ制限値ギリギリの微妙な風が吹いていたとしても、電卓を叩いて厳密な計算をしたりはしません。

万が一、制限値を超えていたら規程違反なのでは? 危険じゃないのか? その都度きちんと計算すべきだ! 素人はそう考えます。


本当に大切なことは何か

よく勉強している訓練生が、こんな素人と同じような主張をします。生真面目で、一所懸命であればあるほど「そんな適当でいいんですかっ!」と食ってかかる…

この例は、解りやすさの観点から誇張したものであって、現実に訓練生から聞いたことはありませんが、実は類似の主張をして教官の言うことを聞こうとしない(自分の主張を曲げない)訓練生は少なからずいます。

でも、その主張も尤もなのでは?筋は通っているのではないのか?そんな風に、素人考えの訓練生を擁護する声も聞こえてきそうですね。

では、何が間違っているのか?

本当に大切なことを見落としている(理解していない)からだ、と答えておきましょう。

離着陸に際し本当に大切なことは、当たり前ですが「安全に離着陸すること」です。通報された風が「制限値内であることを確認すること」ではありません(これは安全に離着陸するためのひとつの要素でしかない)。そもそも、風は瞬時に変わるものです。管制塔から通報された風向/風速は、今まさに離着陸しようとする瞬間の風ではありません。

明らかに制限値を超えている、離着陸中により強くなることが分かりきっている、という場合は別にして、離着陸を決断するのは「操縦者(機長)自身の経験に基づく」としか言いようがありません。そして、そのような操縦者(機長)は、離陸(着陸)後に、仮に他者から「制限値を超えていたのではないか?」と問われても「超えていない… なぜなら安全に離陸(着陸)できたからだ」と即答します。

プロ・パイロットにとって、運航の安全は「結果が全て」です。

絶対の安全を目指すなら飛ばなければいい。でも、それでは仕事にならない。一定の「許容できるリスク(不安全要素)」を引き受け、その許容できる範囲を「知識や訓練、経験から知っている」ことこそがプロには求められる。

許容範囲を超えてしまい運航の安全を脅かしてしまえば、それではプロとは言えませんが、余りに小さな許容範囲であっても、同様にプロとは言えないのです。自家用操縦士技能証明(趣味で飛ぶためのライセンス)と事業用操縦士技能証明(プロとして飛ぶためのライセンス)の違いもここにある。

説明するのは容易ではありませんが、プロ・パイロットらしさ、とは、このような姿勢・態度を持っている者に対して感じる「何か」なのです。そして、それは教官の指導を真摯に受け止め、たゆまぬ努力によってでしか得られないもの。

訓練生のみなさんがプロ・パイロットらしくなってくるのは、さて、いつ頃からでしょうか。そのように感じる日を、私は楽しみにしています。

民間航空操縦士訓練学校についてのご質問・ご相談・お問い合わせは、メールやお電話でお受けしております。こちらよりお気軽にお問い合わせください。


民間航空操縦士訓練学校

関連記事